秋の新歓講演会~IP部門~

ご講演者の紹介

田中 悠介 先生
仙台うみの杜水族館に勤務している水族館獣医師。
埼玉県立春日部高校を卒業後、日本獣医生命科学大学へ入学。
大学では魚病学研究室に所属される。
JAVSの第3代会長を務めた。JAVS時代の夢は全獣医大学の正門前で記念写真を撮ること。
その後、2010年からマリンピア松島水族館に獣医師として勤務し、
2015年から専属獣医師として仙台うみの杜水族館に勤める。
現在は、うみの杜水族館で飼育チームのサポートや獣医師としての健康管理のお仕事から総務まで幅広くご活躍されており、合計で16年もの間、水族館獣医師として勤務している。
愛犬アンディの存在から、もともとは小動物臨床の道に進もうと考えていたが、研究室の先生に誘われて水族館の実習にいったことがきっかけで水族館獣医師を目指した。さらに、水族館獣医師として働くことで、小さい頃に水族館を訪れて楽しかったという思い出や、教師になりたかったという夢にも通じるものを感じ、志を強くした。
「人と人、人と動物の架け橋になること」を人生の目的として掲げ、歩んできた。
今もこの目的をモットーに水族館獣医師として、人と動物のために活動されている。
タイムテーブル
19:00~ オープニング
19:00~20:30 ご講演
20:30~21:00 質疑応答
21:00~21:30 IVSA-J局についての説明
21:30 クロージング
「水族館の仕事とライフワークの見つけ方」
田中先生に事前質問に対する回答も含め、「水族館の仕事とライフワークの見つけ方」というタイトルでお話いただき、その後、コーディネーター(IP部門員)との対談を含めた質疑応答を行った。
以下に先生にお話いただいた内容についてまとめる。


皆さんはライフワークとは何か説明できますか?
ライフワークとは自分の価値観や信念に沿った人生における目標や使命を達成するすべてのアクションのことで、生計を成り立たせるためのライスワークとよく比較されます。
私が目指すもの、「人と人、人と動物の架け橋となること」と水族館の目指すものは似ていて、だからこそこの仕事は私の人生をより豊かにできると考えています。
動物園水族館の4つの役割
日本動物園水族館協会(JAZA)のHPでは、動物園および水族館の4つの役割が以下①~④のように定義されている。そして、現在はJAZAへの加盟・非加盟に問わず、全国の動物園水族館の普遍的な概念になりうると考えられている。この4つの役割は動物園水族館の社会的意義ともいえるだろう。
①調査・研究
水族館で行われる研究について、世のためになる研究、水族館のためになる研究、何のためになるか分からない研究の3つに分けて教えていただいた。
「世のためになる研究」の例としては、サンマの養殖に関わる研究といったものが挙げられる。「水族館のためになる研究」については、イルカの人工授精に関する研究や、飼育イルカのエンリッチメントデバイスについての研究が例として挙げられる。最後に、「何のためになるか分からない研究」については、フンボルトペンギンの糞の最大飛距離を調べた研究などがある。こういった研究は生き物に興味を持ってもらうきっかけになりうるため、水族館らしい、積極的に行っていって欲しい研究分野と考えている。
また、その他に各所研究機関とのタイアップで行う研究もある。
②種の保存
域内保全と域外保全の2種類があり、特に地方の水族館は地元ならではの生き物の保全の活動拠点となっていることが多い。うみの杜水族館ではゼニタナゴの繁殖や保全活動を行っている。
また、展示個体の維持のために繁殖技術の構築を行い、自館内や他園館と連携して継代飼育もおこなっている。飼育展示で生態解明や治療経験値、繫殖技術を学んでいくことで域内保全にも貢献できる可能性がある。
③レクリエーション
一般市民が水族館に行く理由の大部分を占めていて、社会が最も水族館に求めている役割といっても過言ではないだろう。
また、これは水族館に引き込むための手段となっていて、「学び」を深めるきっかけとなっている。
④教育・環境教育
来館者に対して動物や環境について知ってもらうことも動物園水族館の重要な役割の一つである。どうしても継続して体系的に教育を行う「学校」とは違い来館者に伝えられることは限られている。また、得られたことを活用するか否かは来館者に委ねられている。

興味・関心のきっかけを与えるのが水族館の重要な教育ではないかと考え、水族館の活動に参加・賛同してくれたらいいなという気持ちで日々活動しています。一方で、生き物や水族館に深く興味がある人のニーズに応えることも水族館の役割の一つであり、常に情報のアップデートのための勉強が必要であるとも感じています。

例えば調査研究を行うことで成果を活かして種の保存に繋げることができます。そして、それによってさらに来館者にレクリエーションとしての水族館を楽しんでもらうことができ、さらなる教育の機会が増加します。そしてその結果をフィードバックすることで更なる調査・研究を行うことに繋がります。
このように、私はこの4つの役割が循環していると考えています。
4つの役割を支える業務
日々の業務は4つの役割を支える基礎となっている。
具体的には、毎日の飼育管理、健康管理・予防・治療、防疫など。繁殖計画、動物福祉・QOLなど言い出すときりがないくらいたくさんある。
飼育について
実際の症例も交えてお話いただいた。ペンギンの炎症マーカーのひとつとしてフィブリノーゲンが有用であることや、CTや内視鏡の画像診断のお話など専門的なお話を伺った。症例ひとつひとつに向き合うとともに、それを次に活かしていくことが大切だと感じた。
日々の健康管理について

獣医として一番大変なのは日々の健康管理です。まずは自分の目で見ることが大切!
また、日々のハズバンダリートレーニングによって歯磨きから採尿・採血まで、沢山の診療データを得ることができます。
日々の管理が一番大変であり、重要であり、かつ時間がかかるといえるでしょう。
手段と目的~目標は手段のひとつ!水族館というライフワーク~

あなたにとって最も大切なことは目的ですか、それとも手段ですか?
登山を例に挙げると、目的は頂上に達することであり、目標は中継地点であるといえるだろう。
目的は自分の理想の姿であり、実はいつまでも達成できなくて、だからこそずっと追い続けるものである。一方で、目標は目的達成の手段のひとつにすぎず、複数あっても良い。一つにこだわる必要はない。

「4つの役割」は目的であり、「日々の業務」は手段。手段の部分はとてもやりがいがあって楽しみそのもの。しかし、決して目的を忘れてはいけないと考えています。
私の目的は、「人と人、人と動物の架け橋」となることですが、一方で、目標はたくさんあります。例えば、水族館の働き方改革や生涯の研究テーマを見つけること、日本一のペンギン獣医になることなどです。そして、これが私にとっての「夢」だと思っています。
そして、目的が一番大事なことに変わりはありませんが、そこに至るまでの手段も楽しめるような人が仕事をしている時間のみならず人生そのものを豊かにできると考えています。
まとめ

目的に至るまでの手段は多種多様です。だからこそ、一つに固執せずにでも自分なりのこだわりを持ってやることが大切であり、これがライフワークに繋がるものを見つけるきっかけになるのではないでしょうか。
また、「人と人、人と動物の架け橋になる」ことは色々活動する中でその言葉に後から意味がついてきた目的であり、はじめから自分の中に持っていたものではありませんでした。つまり、手段と目的どちらが先でもいいので、皆さんにライフワークを見つけて欲しいと思います。
仙台うみの杜水族館
仙台にある水族館。仙台うみの杜水族館の「うみ」は海ではなく生み出すの「うみ」という意味もあるそうです。
素敵なエントランスのお写真や、養殖のそのままの様子が分かるような宮城のホヤについての展示についてご紹介いただきました。
また、バンドウイルカのパフォーマンスもおすすめとのこと。
10周年を迎えて様々なイベントを企画中!
感想
お話を通して、先生は確固とした自分を持っている方だと感じました。
自分をいっぱいに表現した個性溢れるユニークなお話は非常に面白く、その堂々と前を向いた生き様は真っ直ぐで洗練されていて、私も先生のように人生の目的を探していけたらと強く思いました。
この記事を通して先生の素敵な考え方が少しでも獣医学生に伝わっていればとても嬉しく思います。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
