獣医師インタビュー企画~動物検疫所で働く~浅倉将人さん

獣医学生に進路のひとつとして臨床以外にも様々な進路があるということを知ってもらうために、農林水産省で動物検疫所の獣医師として働かれている浅倉将人さんにお話を伺い、就職先として人気の高い動物検疫所ではどんなお仕事をされているのか伺いました。

プロフィール

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 埼玉県出身。酪農学園大学卒業。

卒業後、農林水産省へ獣医系技術職員として入省。動物検疫所成田支所の動物検疫第1 課に配属
され家畜の検査に従事。その後家畜改良センターへ出向し、鶏の管理獣医師(衛生担当)として
働いた。そして、関西空港支所で旅客の携帯品検査・サルの輸入検疫業務、北海道・東北支所胆
振分室で競走馬の輸出入検疫業務などを経て、現在成田空港の旅具検疫第1課に勤務。

インタビュー

お仕事について

局員

普段のお仕事は?

浅倉さん

動物検疫所は、家畜等の悪性伝染病の侵入を防止するため、海外から輸入されてくる家畜や畜産物等の検疫業務を行っています。今所属している部署は、海外から到着する旅客の携帯品検査業務がメインの業務です。具体的には、旅客の手荷物(スーツケースなど)の中に日本への持ち込みが禁止されている畜産物等がないか確認したり、旅客とともに日本へ到着した犬猫などの検査をしています。テレビ等で紹介されていて知っている人もいるかと思いますが、肉製品などの臭いを嗅ぎ分ける動植物検疫探知犬の力を借りて、携帯品の検査を行うこともあります。
成田空港では、365 日飛行機が到着するため、すべての便に対応ができるようにシフト勤務が組まれています。シフト勤務の職員は原則として4 週間に8 回の休みが設定されています。また、早朝便や夜遅い便の対応もあるので、ローテーションで勤務時間が組まれていて、夜勤などもあります。

局員

これまでたくさんの部署を経験してきた中で最も楽しかったもしくは勉強になったお仕事は何ですか?

浅倉さん

個人的に競馬が好きなので、海外のレースに出走するために輸出されるサラブレッドの検査は良い経験になったと感じています。検査では、血液検査、抗体検査、細菌検査や臨床検査などを実施していきます。自分が検査に携わったサラブレッド達が活躍してくれるととてもうれしい気持ちになりました。国際レースに出場したことのある有名な馬も検査をしたことがあります。

局員

一方で、これまでで最も大変だったお仕事は何ですか?

浅倉さん

自分の経歴の中では生きた家畜を扱う機会が多かったので、家畜の状態によって様々な事例に臨機応変に対応していくことに苦労した記憶があります。多くはないですが、係留中の家畜の所有者が雇用した民間獣医師による急な治療立会のための呼び出しや、係留中の家畜が発熱した際の原因追及のための検査が深夜に及ぶこともありました。治療の前に検査材料を採材して、治療による抗生物質投与などの影響を回避するとともに、綿密な臨床症状の確認を行って伝染病に起因する発熱などの臨床症状の治療による消失に特に気を付けていました。

局員

やりがいやこの仕事の面白さは何だと思いますか?

浅倉さん

検査中の動物に伝染病が確認される、旅客のスーツケースの中から見つかった肉製品からウイルスが分離されるなど、日本での発生がない感染症の摘発を目の当たりにすると、水際の最先端で自分たちが働いているのだと実感します。水際で家畜等の伝染病の国内への侵入を防ぐことで、私たちが食べる肉製品の流通や国内の家畜衛生に貢献できるところに大変やりがいを感じています。

局員

卒業してから今まで色々な経験をしてきた中で壁にぶつかったことはありますか?

浅倉さん

公務員として働くうえで壁にぶつかったと感じたことはありません。公務員として仕事をするからには、法律に基づき対応することになります。悩んだり対応に困った際は、軸となる法律などに立ち返って対応することが多いです。
動物検疫所の業務ではありませんが、大変だった記憶として家畜改良センターで鶏の担当をしているときに、鶏で疾病が確認され、その対策・対応に苦慮しました。今は動物検疫所で働いていますが、もともとは農林水産省の獣医系技術職員なので農林水産省所管の別の機関に異動になることもあります。その都度、そこでの業務を一から覚えたり、勉強しなければなりませんが、幅広い経験を積むに連れて、より広い視野で仕事に取り組むことができるようになっていると思います。

局員

動物検疫所で働く獣医師に必要なことは何ですか?

浅倉さん

 動物の検査、旅客の手荷物検査、肉などの畜産物の検査、精密検査、公務員としての事務作業など動物検疫所の業務は多岐にわたるので、どんなことにも興味を持ち、全力で取り組むことができる能力が必要だと考えます。

局員

動物検疫所で働くにあたって学生時代にやっておいた方がいいことはありますか?

浅倉さん

ラボワークや語学を習得しておくとスムーズに業務に取り組めることはありますが、動物検疫所では研修などの指導体制が整っており、一人で業務に当たる前に教育訓練を受けるので、就職してからそれらの技術等を習得する職員も多くいます。学生時代は視野を広げるために、様々なことに積極的に取り組んでください。

学生時代について

局員

どうして獣医師になろうと考えたのですか?

浅倉さん

 獣医師になろうと最初に考えていたのは小学生の頃でした。家族で行った動物園がとても楽しかったので、動物園獣医師になりたいと考えていました。いろいろな経験をしていく中で、就職先を再検討し、公務員獣医師を目指しました。

局員

大学時代はどんな学生でしたか?

浅倉さん

サッカーや野球、バレーボールなど様々なサークルに入ってよく運動をしていた記憶があります。勉強もやりつつ、友人たちとよく飲みよく遊んだ学生でした。研究室に配属されてからは、薬剤耐性菌の研究に取り組み、細菌検査や遺伝子検査のラボワークに取り組んでいました。

局員

学生時代にやっていたことで今に活きていると感じることはありますか?

浅倉さん

学生時代に培ったコミュニケーション能力が役立っていると思います。実際の業務でも旅客との接し方や説明の仕方でスムーズに業務が進むことが多くあります。学生時代に様々な人と触れ合っておくと良いかと思います。
また、研究室での一般的なラボワーク(無菌操作、PCR 等の遺伝子検査にかかる作業など)を習得していたため、検査をメインとする部署に配属された際にスムーズに検査業務に取り組めたように感じます。しかし、動物検疫所の研修などを実際に受けてみると、学生時代に同じような作業をしていない職員でも同様に検査手技を習得し、検査業務に当たっているので、今となっては逆に大動物臨床や大学病院での二次診療など学生時代だと経験しやすいことを体験しておけばよかったかなとも感じています。

局員

農林水産省や動物検疫所を知ったきっかけは何ですか?

浅倉さん

農林水産省や動物検疫所を知ったきっかけは、大学4年生の時に所属した研究室の先生に動物検疫所での研修を紹介してもらい、研修を受けたことが知ったきっかけです。また、研究室でのテーマが南極環境での薬剤耐性菌についてだったことから、日本にない病原体を扱ってみたいという気持ちが強くなり、動物検疫所への就職を強く希望するようになりました。
現在でも、動物検疫所では学生の研修を受け付けているので、最寄りの動物検疫所に相談してみても良いかもしれません。また、例年夏休みの時期に就業体験実習生を全国の動物検疫所で受け入れていますので、興味のある方は是非応募してみてください。

局員

公務員試験の対策はいつから始めましたか?

浅倉さん

 大学5年生のころから試験勉強を始めました。一般教養については大学の公務員講座を受講し、専門試験は獣医師国家試験の勉強を少し早めに始めるイメージです。同じく公務員志望の同級生と一緒に勉強していました。面接については特に練習をした記憶はありません。面接試験では自分の主張を相手に伝えるコミュニケーション能力を示す場だと思います。私が試験を受けた時期にはありませんでしたが、今の試験では受験者で1つのテーマについて話し合う集団討論のような試験もあると聞いているので、同級生と練習をして対策しても良いかもしれません。

キャリア形成について

局員

農林水産省ではどんなキャリアを歩みますか?

浅倉さん

 獣医職として採用された職員は、最初の1年間は研修を受けることになります。半年は霞が関にある農林水産省、半年は動物検疫所で研修を受けることになります。その後、全国に配属され、2年~3年程度で異動を繰り返すことになります。異動については毎年希望調査があり、人事担当者へ自分がどのようなキャリアパスを歩んでいきたいか希望を伝えることができます。
休みの日の過ごし方は自分のライフステージによってさまざまでした。趣味を充実させている時期もありましたが、今は子供が小さいので、なるべく子供と一緒にいる時間を多くとれるようにしています。

局員

今後やってみたいことは何ですか?

浅倉さん

自分はラボワークが好きなので、動物検疫所の中でも精密検査を主に行う部署に異動し、研究や論文に携わる業務に興味があります。もともと、学生時代に大学院に行って博士号を取得することも考えていたので、チャンスがあれば論文の執筆などにもチャレンジしてみたいです。

最後に

局員

過去の自分や今の獣医学生に伝えたいことを教えてください。

浅倉さん

仕事を始めると、長期の休みはなかなかとることが難しくなるので自分の興味のある分野を突き詰めて勉強してみたり、海外旅行など時間がかかる遊びも含め様々なことを経験し、今のうちに視野を広げておいてください。若い頃のそうした経験は、きっと社会人になってからの糧になると思います。

動物検疫所のご紹介

農林水産省動物検疫所 業務紹介動画

ご興味のある方はぜひ以下のリンクをチェックしてみてください!

インタビューを終えて

私は特に実際のお仕事のエピソードをお聞きして、扱う動物種は部署によって様々であり、地域や動物の状態や種などによって検査項目が変わってくるというのが面白いと感じました。日本全国に異動があるのは大変ですが、その異動先で様々な経験が積めるのは楽しそうですね。実際にお話を聞いてより具体的にお仕事の様子をイメージすることで、私も一度実習に行ってみようかなと思いました。

日本の防疫のために必要不可欠であり、大きな責任が伴うお仕事ですが、その分やりがいも大きいのではないかと感じます。

興味を持たれた方はぜひ一度実習に行ってみるのはいかがでしょうか?

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