獣医師インタビュー企画~エキゾチックアニマル診療への道~田向健一先生

 近年、「エキゾチックアニマル」と言われる動物がペットとしてますます注目を集めています。一般的に「エキゾチックアニマル」とは、ウサギやハムスターなどの小動物から爬虫類、両生類、魚類など、犬猫以外の動物を指します。近年のペット業界の情勢からエキゾチックアニマル診療の需要も急激に増加しており、獣医療の中でもこれからますますの発展が期待される分野となっています。

 本インタビュー企画では、犬猫に加え小動物から爬虫類、両生類、さらにはタランチュラなど幅広いエキゾチックアニマルを診療される田園調布動物病院医院長田向健一先生にお話を伺いました。学生である今こそ聞きたい学生時代から今までの経験や、現場でのこと、さらには私たちが担っていくこれからのエキゾチックアニマル獣医療についてなど、幅広くお話していただきました。

プロフィール

 

【所属・役職】

・田園調布動物病院(院長)

・東京都獣医師会大田支部(支部長)

・日本獣医エキゾチック動物学会 (副会長)

・日本獣医学会

・日本獣医師会

・日本獣医麻酔外科学会

・日本野生動物医学会(評議員)

・Association of Reptile and Amphibian Veterinarians
 (International Committee)

・Association of Exotic Mammal Veterinarians

著書

モルモット飼育バイブル 長く元気に暮らす 50のポイント コツがわかる本 2020/12/01

フクロモモンガ飼育バイブル 長く元気に暮らす 50のポイント コツがわかる本 2020/02/26

デグー飼育バイブル 長く元気に暮らす 50のポイント コツがわかる本 2019/01/09

珍獣ドクターのドタバタ診察日記 動物の命に「まった」なし! 2017/08/02

ハムスター:毎日のお世話から幸せに育てるコツまでよくわかる! (小動物☆飼い方上手になれる!) 2017/05/15

チンチラ完全飼育:飼育管理の基本からコミュニケーションの工夫まで (Perfect Pet Owner’s Guides) 2017/01/06

生き物と向き合う仕事 (ちくまプリマー新書) 2016/02/10

絶対に見逃すな! 犬の症状これだけは! 獣医さんにすぐ伝わる「ワンコ手帳」のススメ (impress QuickBooks) 2013/07/11

珍獣病院 ちっぽけだけど同じ命 2011/07/23

珍獣の医学 2010/12/25

【経歴】

・愛知県大府市出身

・1998年 麻布大学獣医学科卒業 獣医師免許取得

・2003年 田園調布動物病院開院

・2014年 博士号(獣医学)取得

・2011年 TBS『情熱大陸』出演

・2020年 NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』出演

 

インタビュー

  • 学生時代について

子どもの頃好きだったことは何ですか?どのような子どもでしたか?

幼少期から生き物が好きで、いろいろと捕まえて飼っていました。そして、飼育を通して様々な動物を診療できるようになりたい、と獣医を志すようになりました。
獣医学部に進学した後、生き物への情熱をエキゾチックアニマルを含めたありとあらゆる動物の飼育に注ぎ、その経験は現在の診療に役に立ってます。

現在の学生は、学校でエキゾチックアニマルについて少しずつ教わる機会は増えている一方で生態的な知識や医学的な知識については詳しく学ぶ機会がほとんどないため、独学で情報を得なければならない状況が続いている。

 

先生が学生時代にエキゾチックアニマルの獣医学を学ぶためにされていたことはなんでしょうか?

 

臨床獣医学はあまりしなかったのですが、図書館にあるエキゾチックアニマル関連の本は獣医学的な内容も含めて読んでいました。また、自分で動物を飼うことを通して、診療の基礎である動物の生態や飼い方を勉強しました。
就職したら嫌でも毎日診療をしますから、臨床獣医学的な内容はその時期から本格的に勉強を始めても遅くはないと思います。

 

学生時代は実習に行く機会がありますが、やはり将来エキゾチックアニマルを診ることを意識して積極的に実習に行き勉強されたんでしょうか?

 

実習にはあまり行きませんでした。
現場を見て見たい、という興味などで実習に数日いったところで臨床技術はすぐには身につくものではないため、そういうインターンや実習は結局学生の背伸びでしかないと思います。5-6年生の時にその動物病院の雰囲気を知ったり就職先を選ぶために実習に行くのには意味があるとは思いますが、獣医学部に入りたい高校生が、獣医大の実習に3日間参加したからって、優秀な獣医学生になれると思いますか?(笑)
そもそも、臨床も就職したらいやでも毎日経験するのでそこで臨床技術を身に付けれいいと思います。実習は就活のために都合のいいように使って、それ以外の時間では学生のうちにしかできないことをした方が何倍もいいと思います。

 

インタビュー序盤から意外な回答をいただいた。エキゾチックアニマル診療は大学で学べないからこそ、低学年のうちから様々な動物について専門的な内容を勉強し、実習に行くべきなのかなと思っていたが、そうでもないとのことだ。特に実習については、診療現場での応用的な知識を基礎をまだ習得出来ていない学生が吸収するのは難しいことだし、技術についても言わずもがななのだろう。

 

 

  • 大学の授業について

獣医学部では、解剖学や生理学等様々な分野を習いますが、エキゾチックアニマルの診療やその勉強のために特に勉強してよかった、重要だと思う教科は何でしょうか?

 

解剖、生理、病理、微生物などの基礎的な科目です。基礎は本当に大事です。
内科や外科などの応用的な勉強は、これもやはり就職後やればいいし、授業で学ぶよりも実践で学んだほうが実際に経験するので早く身に付きやすいと思います。

 

「学生のうちは学生にしかできないことを」という言葉は印象に残った。学生だからこそ使うことができる多くの時間を、臨床や応用的な内容の先取りよりも、基礎や自分の興味分野を極めることに費やす方が将来的に役に立つのかもしれない。確立された情報が少ないエキゾチックアニマルこそ、学生時代から自分自ら飼育した経験は診療時の正しい判断につながっているのだろう。

 

 

  • 卒業後について

エキゾチックアニマル診療をする病院で働くためにはどんなことが必要でしょうか?

 

エキゾチックアニマルの診療に直結する知識や技術は就職後に本格的に身に付けることができます。
田園調布動物病院の採用基準の話にはなりますが、エキゾチックアニマルを診療する上で何よりも大切なことは、いろいろな動物が好きなことです。また、獣医師は飼い主さんとの会話がとても大切なので、明るい、はきはきとコミュニケーションが取れることや、仕事を休まずに体が丈夫であることもとても大切です。
こういった意味では、カフェとかファミレスでアルバイトをするのはいい経験になるかもしれませんね。

 

実際に獣医師になってからの勉強のために、海外のものも含めて論文は一通り目を通しているとのことでしたが、その他勉強のためにされたこと、または現在の診療に役立った習慣や経験はありますか?

 

今は日本語の本が多くあるので、まずは日本語で勉強したらいいと思います。それででも足りないようであれば、海外からの情報を仕入れると良いと思います。
エキゾチックアニマル分野では特に、まだ誰も調べていないないことがたくさんあるため、自分で調べてみるしかないのが現状です。

 

エキゾチックアニマルの情報を得る場として学会が思いつきますが、学会に所属したほうがいいのでしょうか?また、学会に所属するメリットはどんなものがあると思いますか?

 

学会は懇親会・交流の場として重要だと思っています。
情報を得られるのはもちろん、人脈を得ることで患者さんに紹介できる病院が増えるだけでなく、診療で悩んだときに相談できる仲間が増えます。
また卒業後に伴侶動物診療分野で開業を目指す場合は1つの病院で修業を積む人が多い中、複数の病院で経験を積んだことが良い経験になっています。病院ごとに雰囲気が大きく異なり、苦労もありましたがかなり勉強になりました。

 

 

  • エキゾチックアニマル診療について

いよいよ実際に現場の最前線で日々エキゾチックアニマルと向き合う先生に、診療をしていて感じることや、今後のエキゾチックアニマル診療について伺った。

 

魚も診療されるんですね!個人的には魚類の診療に対するイメージが湧かないのですが、具体的にはどんな治療をされるのでしょうか?

 

魚の治療は基本的に薬浴が多いです。魚はえらを通して血管中に物質を取り込むことができるため、薬の入った水につけることで薬を取り込ませ治療します。

 

ペットの魚が運び込まれるということで、魚類の外科手術ってされたりするんでしょうか?傷口から水が入りそうですが…。

 

体表の外科であれば腫瘍の切除とかだったら特に問題ないですね。

 

エキゾチックアニマル診療の難しい点は多くあると思いますが、特にこれは難しいと挙げられることはありますか?

 

一般的に難しいとされているのはデータが少ないことや情報が得にくいことだと思います。データについては、参照できるものがないときに自分で集計して基準値を設定したこともあります。

 

逆に、エキゾチックアニマルの診療をやっていてよかった、とやりがいを感じるのはどんな時ですか?

 

なぜエキゾチックアニマルを診るのかと言ったら、面白いからです。もちろん、専門分野を深く極めることも魅力的だと思うが、個人的には豊富な種類の動物を診る方が楽しいのです。

 

エキゾチックアニマルの診療はまだまだ開拓途中の分野だからこそ、難しい面もあるが、視点を変えれば開拓しがいのある面白い分野なのかもしれない。

 

さらに、こんな踏み込んだ質問にも回答していただいた。

正直、エキゾチックアニマル専門医になったとして、生計は成り立つのでしょうか?

 

結果を出し続けて飼い主の信頼を得ることができれば全然稼ぐことはできます。この分野で就職するにしろ開業するにしろ、まずは勇気をもってチャレンジすることが大事です。

 

先生が考えるエキゾチックアニマル(特に爬虫類)の医療の現状と今後に対して、どのように考えていますか?

 

今エキゾチックアニマルを診療できる先生は少なく、かつそのレベルはまちまちです。特に技術面については、エキゾチックアニマルは既存の手術道具では手術が難しいことも多くあり何とか工夫してできる限りの対応をしているのが現状となっています。
これからに関しては、法律の規制が厳しくなりつつあるので診る動物種が少なくなるかもしれません。また、ここ20年間でエキゾチックアニマルと一口に言っても人気種はがらりと変わりましたし、今後もその動物種は社会情勢を反映して変わっていくと思います。獣医療の道具や技術は今も進化し続けていますし、エキゾチックアニマルの分野でもさらに高度なものになっていくはずだと思います。

 

 

  • 最後に

将来エキゾチックアニマル専門医を目指す学生に求めることを教えてください。

 

とにかく継続ですね。自分自身も継続したからこそ今があると言い切れます。最初エキゾチックアニマルの診療を目指して獣医学を学んできた人間もエキゾチックアニマル診療からはどんどんと離れてしまいますが、志を保ち続けて、勉強を続けることで、夢を掴むことが可能になると思います。

 

インタビューを終えて

先生へのインタビューを通して、エキゾチックアニマルの獣医療に携わるためにすべきことは、動物への情熱をもってコツコツと修業を続けることなのだと感じました。先生がこの分野で最前線に立ち多くの飼い主の信頼を得ているのは、幼いころから探求心をもって動物と向き合い続けた結果と言えるでしょう。

また、先生いわく「勇気をもってチャレンジ」することも重要とのことです。実際に、先生は飼育や診療したことがなくても「基本どんな動物でも診る」というスタンスで日々診療されています。先生の言葉からは、リスクを恐れず挑戦する、そして一度診療すると決めた動物は最後まで治すために最大限の努力をする、という覚悟を強く感じました。

この地道な努力と、時には情報が少ない動物と向き合う勇気ある決断によって、これからの時代とともに変化する動物の流行や医療の高度化に対応することができるのではないかと思います。

獣医師としても大事にしている考えを教えてくださいと質問したところ、動物のための動物主体の医療を提供すること、と答えていただきました。ヒトの言葉を話さない動物の伝言師であり、動物のために何をすべきか飼い主に伝えるのが獣医師の役割だとおしゃっていました。この姿勢は、エキゾチックアニマル分野に限らず、動物と人とのより良い関係を構築する伴侶動物獣医師にとっては特に重要なのではないでしょうか。最後にこの場を借りて、貴重なお話を惜しみなくしていただいた田向健一先生に深く御礼申し上げます。

Originally posted 2022-01-07 15:00:00.

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